第五章 状況

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『昨日家に帰った時は、母ちゃんいつも通りだったんだ』  京介は、覇気の無い声で話し始めた。 『だから俺ほっとして、自分の部屋で寛いでた。そしたら……』 「そしたら……?」  俺は先を促すように言った。  人間というのは、こういう類の話に興味を持つものだ。  恐怖心と好奇心の間で揺れる心。  親友の深刻な話なのに、俺はその2つの感情を天秤にかけている。  そして、好奇心が勝っている。  従って、先を促すような言葉を言ってしまうのだ。 『悲鳴聞こえた……か、母ちゃんの』  京介の瞳が悲しげに揺れた。 『母ちゃん……何かに怯えてて』 「何かに?」 『ああ、それで俺を見た。そして“助けて”と言って……』  京介は言葉を詰まらせた。 『消えたんだ……』  その場から、忽然と。  今まで存在しなかったかのように。  消滅した。  ふと、瞬きを1つした間に。 『信じられるか……? 消えたんだぞ? パッて。一瞬で』  京介は、笑った。 『突然過ぎて涙も出ねぇよ……!』  京介は、声を出して笑った。  その笑いは、京介が狂ったようで怖かった。
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