第五章 状況

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「おいっ!! 大丈夫か!?」  俺は京介の肩を掴み揺すった。 『…………っ』  京介は俯いた。 『一瞬……何かが見えた』 「何かが?」 『手……みたいなの』  手? 『お母さんの手じゃないの?』  千秋が聞いた。  俺も丁度、そう思っていたところだ。 『いいや、違う……違う方向から伸びてた。それに……』 「それに?」 『爪が……鋭くて、長い爪が』  京介は小さく肩を震わせた。 『母ちゃん……を引き裂いて』  京介の目に涙が滲んだ。  俺はどうしようも出来ない、悔しい気持ちになった。   “元気だせ”とか  どこかで聞いたような慰めの言葉しか頭に浮かばない。  安っぽい慰めは、余計に相手を傷つける。  俺にだってそれくらい分かる。  だから、困ってるんだ。  俺は親友が泣いてるのに、ただ黙ってるしか出来ないのか?  俺の心の中は、雨の日の黒い雲のようにもやもやしていた。
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