第十九章 葛藤

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 俺は目を瞑った。  覚悟を決めて。 「やってくれ……」  恐怖からか、怪我の痛みからか、自然と息が荒くなる。  体中に何かドロドロしたものが付着する。  あれ……?  でも、全然痛くない。  俺は不思議に思い、おそるおそる目を開けた。  そこには、真っ赤な服を着た――いや真っ赤な血に染まった服を着た千秋の姿があった。  俺に付着している血は、千秋の返り血だったんだ。 「あ……ちあ……」  目の前の惨劇に、思わず後退りする。  赤に染まった千秋が、ゆっくりと地面に倒れる。 「千秋っ!!」  我に返って、千秋を支える。  血が俺の肌や服に付いてぬるぬるするが、そんなことにも気を止めない。 「千秋……どうして!!」  千秋は自分で自分を刺したんだ。  千秋は今にも閉じてしまいそうな瞼を必死に開いて、俺を見る。  そして、言った。 『愛してるから……』  その瞬間、すっと暖かい光に包まれて。  千秋は消えた。  俺に付着していた千秋の血も、すっと消えて無くなった。  俺の肩とふくらはぎの傷も、いつの間にか癒えていた。  まるで、今起こった事は全て夢だったかのように。  でも、夢で無い証拠に、俺の頬を一筋の涙が流れた。
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