3人が本棚に入れています
本棚に追加
ベッドを整え就寝準備をしてから、直江の後に入浴を済ませた高耶は、リビングでビールを飲んでいる直江の後ろに、そっと歩み寄る。直江が気づいて振り返る前に名前を呼んだ。
「直江」
「ああ、出ましたか……っ?!」
振り向いた瞬間、柔らかいものが唇にふれた。何の前触れもなくくちづけられて、直江は後ろに立つ高耶を見上げた。
「た、たかやさん…?」
ソファーの前に回って隣に座りながら、高耶はちょっと笑って小さく言った。
「さっき、我慢した褒美」
直江の手から飲みかけの缶を奪い取って飲み干す。やっぱり風呂上がりのビールはうまいなー、と満足のため息をついたところで、急に身体が傾いた。慌てて起きあがろうとすると直江の腕の中に抱き寄せられていて、自分を見上げた高耶に、直江が囁いた。
「もう一回、してくれませんか?」
「何で。不意打ちだったからってのはなしだぞ」
先手必勝で言うと、直江が首を振った。
「違いますよ。まあ、それも多少はありますが…」
「やっぱそうじゃねえか」
ダメだよと言い放つ高耶に、直江がまあ聞いて下さいと続ける。
「さっきのは料理をしていた時の分です。まだあと一つ、片づけをしていた時のが残ってますよ。ちゃんと我慢してたでしょう?」
こじつけのような直江の理論に呆れながら、高耶がしょうがないなと苦笑した。あと一回だけだぞと念を押しながら、高耶は直江の唇に顔を近づけた。強く抱きしめられて、静かに重なった唇をおいしく食べられながら、
(あーあ、もしかして墓穴掘ったかな、オレ…)
今さらしても遅い後悔を、身にしみて感じてしまう高耶だった。
Fin.
1998.8.2.up
2008.1.16.revision
最初のコメントを投稿しよう!