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青木ヶ原の樹海。日本が誇る富士の眼下に広がる広大な森林地帯。
富士の名声とは対照的に自殺の名所として知られるこの樹海は、何の装備も持たず一度奥に入ったら戻れない、帰らずの森として有名である。
まして夜ともなれば、その様相はまさに入った者は逃さない、闇が死神の衣となり、まとわり誘う。そんな印象を受けるのもあながち気のせいではないだろう。
そしてその夜も、樹海は静まり返っていた。
虫、動物、植物、さまよう魂すらも何かに怯え息を潜めてるかのように…
いや、「かのように」ではない。
事実、そうなのだ。
元凶の5人は樹海全て覆いつくす妖気を「自然体」に放出しながら、目的地へと歩いていた。
5人組は2メートルを越える大男を先頭に、長身、長髪、帯刀の青年。
カンフー服似の服を着た密編みの女性。
その隣に灰色の袴を着た低学年位の少年。
そして少し前屈みになりながら、最後尾を老人が歩く。
歳、服装等全てがバラバラの5人だが共通してたのは、「耳が異様に長い」といった特徴だった。
程なく先頭を歩いていた大男を青年は一本の木の前で止めさせた。
目的地にたどり着いのだ。
一見、ただの木に見えるが青年が印を結び、手を翳すと、幹の数ミリ手前の空間が、水面に浮かぶ波紋のように大きく波打ち始めた。
青年は老人以外に待機を命じると、波紋へと足を踏み入れた。
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