冬のコテージ

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ここでの日課のひとつは 曙光が きざし始めたあとの まだ どこかに隠れている 夜の冷気の立ち込めている中を 散歩に出かけることである 今朝は ダッチウェストの薪ストーブの火室にたまった燠(オキ)が ひと晩中 部屋を暖めてはいたが 室温はいつもより低く 外気の冷え込みが予想できた グランドコートの襟元のホックを 上までかけて外に出ると 湿気を帯びた 肌に突き刺す冷気は尋常ではなく 吐息が白くはっきりと大気に混ざるのを確かめるように 何度か意識的に息を吐いてみる 首をすぼめ ポケットに手を入れて 小径をコテージから離れるように 歩き出し 決まった歩幅の 決まったリズムで 同じ木を見て 同じ土手の露出した土を見て 大きなワダチを避けながら 同じように歩く 寒さで鼻をすすってしまったことと 彼女から借りたCD ママス&パパスの「夢のカルフォルニア」が 僕を追憶の世界へと連れて行く以外は いつもと変わらない散歩だった
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