漆黒の闇

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『わたくしには魅力がないのでしょうか?』ある夜、望月の君が呟いた。『何故(なにゆえ)そのように思われるのです?女房達から何か言われたのですか?』『ええ…それが、女房達ではなく、父に。正盛様とわたくしは、仲睦ましいと聞くが、今だ子ができぬのは何故か?…と』私は答えに困った。望月の君は、美しく品のあり、学のある姫だ。それ故に、愛しくて仕方のない姫だ…。かの様に賢き姫は、国中探してもまずおらぬ。正直に話すべきか…。我が一族の滅びが近いと予感している事を。だが、繊細な姫をこれ以上困らせたくなかった故、滅びの事は口にしなかった。『決してその様な事はない。そなたは、私だけの愛しき姫だ…』『正盛様っ』望月の君が私に抱きついてきた。涙を頬につたわせながら…。私は、涙を指でこすり、にこりと微笑んだ。望月の君も嬉しそうに、微笑んだ。 雲が月を隠し、漆黒の闇が現れた…。
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