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提灯の明かりが川べりを彩り、水面を渡る風が映った光を揺らめかせている。千秋とねーさんに誘われて、オレと直江はこの四人のいつものメンツで夏祭りに来ていた。
「にぎやかねー」
千秋と並んで前を歩くねーさんが直江とオレを振り返る。
「本当だな。…晴家、それで人の足を踏むなよ」
ねーさんの足元に目をやって直江が言った。直江と千秋とオレの三人は洋服だけど、ねーさんは浴衣に下駄だ。紫陽花の柄の、薄いブルーの浴衣がよく似合っている。
「わかってるわよー。それより、景虎がはぐれないように気をつけた方がいいんじゃないの、直江」
「何だよ、いつまでも人を子供扱いするなよなー」
苦笑しながら言い返すと、千秋が笑った。
「何言ってんだ。俺たちにとっちゃ、おまえはいつまでたってもガキなんだよ」
そう言って額を指で小突く。
「何すんだよ、やめろよな。ったくもう」
言って前髪をかきあげるけど、本当はこんな風に子供扱いされるのはそんなに嫌なことじゃない。それがわかっているんだろう。二人も笑って前を向いた。横を見上げると、直江が優しく微笑んだ。その肩に手をかけて引き寄せ、こっそり耳打ちする。
「あの二人、お似合いだよなあ?」
「そうですね。いいムードですよね」
直江も頷いて囁き返す。
「このままうまくいくといいな」
「私もそう願ってますよ」
直江の答えにこくこくと頷いて前を向いた。と。
「あ、おい」
つんつんとつついて前を示す。人込みに入る手前、千秋がねーさんの手を取ったのだ。
「あ」
直江も小さく声を上げ、オレたちはちょっと顔を見合わせる。
そのまま見ていると、ねーさんはびっくりしたように千秋を見上げて、千秋が何事かを言ったようだ。ねーさんは笑って頷き、その手を、つなぎ返した。
「!」
息を飲んで見ていた直江とオレは、同時に顔を見合わせ、声を出さずに微笑んだ。わずかに見えたねーさんの横顔は、とても穏やかで、そしてとても幸せそうだった。
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