#1

3/3
前へ
/76ページ
次へ
「私たちも、つなぎましょうか」  そう言って、直江が手を差し出した。オレは直江の顔を見上げ、頷く。 「はぐれたら、困るからな」  オレは差し出された直江の手を取る。さっきねーさんが千秋にそうしたように。 「ええ。はぐれたら、困りますからね」  くすくすと、小さな笑いが零れる。-はぐれたら、なんて、そんなのは単なる口実に過ぎない。ただもっと近くに感じたいから-。罪のない嘘を共有する、共犯者の笑みを浮かべて、オレたちはお互いの手を強く握り返した。オレの手を包み込む、直江の大きな手が暖かくて、愛しくて、嬉しい。 「直江」  呼んで、つないだ手を引きながら背伸びをする。察して、直江がこっちに身体をかがめた。瞳を閉じ、一瞬だけ、唇が、重なる。 「好きだよ、直江」 「ええ、高耶さん」  つないだ手がほどけないようにしっかり指を絡め合わせて、オレたちは人波の中へ歩き出した。
/76ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加