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「私たちも、つなぎましょうか」
そう言って、直江が手を差し出した。オレは直江の顔を見上げ、頷く。
「はぐれたら、困るからな」
オレは差し出された直江の手を取る。さっきねーさんが千秋にそうしたように。
「ええ。はぐれたら、困りますからね」
くすくすと、小さな笑いが零れる。-はぐれたら、なんて、そんなのは単なる口実に過ぎない。ただもっと近くに感じたいから-。罪のない嘘を共有する、共犯者の笑みを浮かべて、オレたちはお互いの手を強く握り返した。オレの手を包み込む、直江の大きな手が暖かくて、愛しくて、嬉しい。
「直江」
呼んで、つないだ手を引きながら背伸びをする。察して、直江がこっちに身体をかがめた。瞳を閉じ、一瞬だけ、唇が、重なる。
「好きだよ、直江」
「ええ、高耶さん」
つないだ手がほどけないようにしっかり指を絡め合わせて、オレたちは人波の中へ歩き出した。
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