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無理にでも手を手繰り寄せればサトミが、必死に押さえている手を振りほどき電話を掛ける事も出来ただろうが
それ以上に虚しい気持ちになったので辞めた。
俺は携帯をサトミの前にほうり投げると
「そんなにその男が大切なら
その男と一緒になれよ」
そう言って硝子の引き戸を蹴り倒し、家を飛び出した。
硝子が割れた音に驚き子供達はわんわん泣いていが
その声が、耳鳴りの様にしか聞こえないくらい
俺の胸の内で何かが壊れた衝撃は大きかった。
サトミが浮気をしていた事には特別驚きもしない。
離婚を決めるだけの理由を求めていた部分もあった。
ただサトミのその態度には納得がいかない。
今まで家族の為に散々、身を削ってきた結果がこのザマかと
これまでに味わった事のない
屈辱を受けた。
どこをどう走ったのか、まるで覚えてないが
ふと、我にかえると実家のすぐ手前まで来ていた。
(今更、実家になど帰りたくはないのに…)
突き当たりに差し掛かっても
右にも左にも曲がらずに
しばらく呆然とその先にある壁を眺めて車を停めていた。
もう帰りたい家はない。
このままハンドルを抱いて眠りたいほどの脱力感に覆われた。
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