ジオラマ町奇譚

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どれ程の日数と貴重な小遣いを費やしたであろうか。 とうとう我が町を完全に再現したジオラマが完成した。 部屋いっぱいに拡がるジオラマを見ると感無量である。 周囲に展開する山河。 部屋の照明を消すと灯る町の灯火。 通勤に使っている鉄道が疾駆する。 我ながら完璧な出来映え。 しかし、これで終わりでは無い。この町は街へと発展しようとしている。 このジオラマもそれに併せて発展して行くのだ。 この趣味、私の夢に終りは無い。 しかし、失った物も多々ある。 会社での付き合い、家族との触れあいを犠牲にしてきた結果なのである。 妻と子供は呆れかえり、家族の会話は無くなった。 それでも良い…私にはジオラマ造りが有るのだから。 ある休日。その日もジオラマに手を加えていた時、家が揺れた。 地震だ。軽い地震であったが弾みで建物の配置の際に一軒の模型を潰してしまった。 それは通勤の際に通る道の古びた一軒家であった。 あばら家が潰れた…潰れた家を見て自虐的に笑った。 潰れた家を直すのは後回しにしよう。その日は作業を中断して休む事にした。 翌日…いつもの様に朝早く会社に出かける。 駅へ向かういつもの道のり。 …潰した模型のモデルの一軒家が実際に潰れていた…
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