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ジオラマ町奇譚
「あなた、休日ぐらい外に出たらどうなの?」
妻が口やかましく言う声が階下から聞こえてきた。
いつもの事だ。
近所の井戸端会議の仲間を家に招き、つまらぬ噂話に花を咲かせるのだろう。
私は妻の言葉を無視する。
思えば家庭の中で私の威厳が無くなったのはいつからだったのだろう…この家を手に入れる為に私は多くの物を犠牲にしてきた。
会社の同僚や部下達との付き合い。
妻と二人の子供に対する威厳。
これらを犠牲にして郊外に決して小さいとは言えない私には分不相応な我が家を手に入れた。
勿論、退職金の前借り、長年に渡るローンが在っての事なのだが…
兎に角、これだけの犠牲を払ったのだ。
私個人の部屋と休日の過ごし方、これぐらいは私の自由にさせてほしい。
広く作った私の部屋には今、私の長年の夢が拡がろうとしている。
子供の頃からの夢であり趣味のジオラマ造りである。
幼い時より手先が器用であった私は趣味としてプラモデル造りから始め、少ないお小遣いをプラモデルに注ぎ込み、それだけでは満足せず、いつか本格的なジオラマを、と思っていた。
社会的にやっとある程度の少ないながらも資金力と場所を得た今、私の願望は結実しようとしていた。
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