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……ともあれ、今宵の母――詠(よみ)――は、娘の問いに淡々と答えた。
「いえ……後になって考えてみれば、人間の生き方、その在り方を学べというのは些か漠然とし過ぎているかと思いまして」
――今更、そんな大前提を崩す発言をする詠。
しかも、それをまったく気にしていない様子で真剣に話を聞く今宵。
この親子、海斗からすると頭痛くて仕方ない。
「……では、お母さま。私は、何を学べば良いのですか?」
グッ、と拳を握り締めて、真剣そのものといった様子の今宵に、詠はゆっくりと、答えた。
「……人間の幸せとは、何か。人の幸せを理解し、人として生きたいと強く望めるようになれば、自ずと変化も上手くいくでしょう」
母の言葉に「なるほど」、と目を輝かせている今宵だが、海斗に言わせてもらえば人の生き方だろうと幸せの在り方だろうと、抽象的で漠然としすぎていると思うのだが。
しかし、詠はそんな思いをお構いなしに、海斗の方を振り向いた。
「……ご迷惑かと思いますが、今宵のことをよろしくお願いしますね、八積海斗」
「ハァ……」
突然話し掛けられて、思わず頷いてしまう海斗。
そんな彼を見て詠は満足そうに微笑み……一瞬の間を置いて、消えた。
きっとあんな風に、現われたときもいきなり現われたんだろうな、なんて考えながら、海斗は今宵から奪った玉葱炒めを食べ始めたのだった……
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