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――逆月今宵(さかつき こよい)は、自分の母親の言葉に呆然とした。
「え、えぇと、お母さま……?今、なんておっしゃいましたか?」
動揺している今宵に対して、彼女の母はとても冷静だった。
「ですから、人間と共に暮らしてきなさいと言ったのですよ、今宵」
――そんな会話をする二人は、人の形をしていなかった。
端的に言えば犬……もっと穿って言えば、柴犬に近い。
彼女等は、幾百年前に生まれた犬のあやかし、その子孫である。
変化の術を得意とし、その寿命も近いことから、普通は人間社会に紛れることで生きている。
だがしかし、今宵の場合そうもいかなかった。
端的に言って、変化が下手なのである。
困ったことに、耳と尻尾が隠せないのだ。
――そんなわけで。
「今宵。貴方は今日から、私たちのご先祖様がお世話になった人間……八積家の子孫様の所に住ませていただいて、人間について学んできなさい」
人の生き方、その在り方について学べば、自ずと変化もできるはずです。
そう断言した母親に、しかし涙目で抗議する今宵。
「そ、そんなぁ!無理ですよお母さま!私、そんなの無理です!」
しかし、娘の決死の抗議にも、母親は冷たかった。
「つべこべ言わずに、行ってきなさい。ちゃんと変化ができるまで、逆月家の敷居を跨ぐ事は許しません」
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