天然親子

2/4
前へ
/56ページ
次へ
――そんなわけで。 「あうぅぅぅ……」 今宵は、唸っていた。 目の前に置かれた産業廃棄物の山盛り(注・今宵視点)を前に、それはもう唸っていた。 耳と尻尾をピンと立てて、「あぅあぅ」と唸る今宵。 で、それを見て和みまくっている海斗。 (あぁ……可愛いなぁ) ――彼の名誉のために追記しておくが、海斗は特別加虐心の強い人間ではない。 ただ、こう……近い心境で言えば『好きな子をいじめてしまう』的な、そんな心境なのだ。 また、今宵は困らせてみたくなるタイプだから、余計に。 今も、玉葱炒めに唸ってる今宵は、こう、誰が見たって犯罪的に微笑ましいし。 そんなわけで、ちょっぴり興が乗ってきた海斗。 「今宵、別に食べなくても良いぞ」 思いがけない言葉に、あぅあぅ唸るのを止めて目を輝かせる今宵。 「ほ、ホントですか!?」 それはもう嬉しそうに尻尾をパタパタさせる。 「ああ、食べなくても良い。……だが、よく聞け」 「ふぇ?」 不意に聞いた海斗の真面目な声に、思わず背筋をのばしてしまう今宵。 「――いいか、よく聞けよ?」 「は、はいですっ!」 とりあえずコクコク頷く今宵に、海斗はより一層声を低くして、呟いた。 「あのな、今宵……玉葱切るのって、目に痛いんだ」 「…………」 「涙が零れて、止まらなくなる。もちろん、それを作るときもそうだった」 玉葱炒めを指差す海斗。 対して、徐々に泣きそうな表情になる今宵。 「……苦労したんだよ、それ作るのに。九死に一生の経験だった、いや誇張なしに」 もちろん、バリバリ誇張だらけである。 「いや別に、だからどうってわけじゃない。俺が死ぬほど苦労したのと、今宵の好き嫌いは関係ないからな」 「あぅ……」 もはや完全に耳と尻尾をうなだれさせてしまった今宵に、海斗は言い放った。 「今宵、もう一度言う……それ、食べなくても良いぞ」 「はうぅ……」 正直な話、食べたくない。 でも、海斗さんが一生懸命作ってくれたんだし…… 相反する二つの思考に葛藤する今宵。 とはいえ海斗としては、最初から自分が食べるつもりで炒めたので、そろそろホントに食べなくていいと言おうと……そう、思った瞬間だった。
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

47人が本棚に入れています
本棚に追加