天然親子

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「――あむっ」 食べた。今宵が。玉葱を。 その唐突な事態に、目を白黒させつつ内心で倒置法なんか使ってみたりする海斗。 「ちょ、今宵お前……」 本気で食べさせる気はなかったので、狼狽してしまう。 対して今宵は、口に運んだ玉葱を飲み込んで。 「……おいしい、です」 そう、言った。 けれどその目は潤んでいて、耳も尻尾もションボリで、誰が見たって強がりだった。 「今宵……」 そんな彼女を見て、不意に胸の熱くなる海斗。 けれど、それ以上の罪悪感が、彼に口を開かせた。 「……ごめん、今宵。冗談が過ぎた」 素直に頭を下げる海斗に、今度は今宵が困ってしまう。 「そ、そんな、私……全然、気にしてないですからっ……だから、海斗さんも頭を上げてくださいっ!」 「…………」 「…………」 微妙な、けれど不愉快ではない、お互いの存在を認め合っているかのような、不思議な沈黙。 けれど、その沈黙は、 ――不意に。 「まあ、今宵に玉葱を食べさせるなんて……中々やり手ですね、八積海斗」 不意に響いた空気を読まない台詞に、ぶち壊しにされた。 「おわっ!」 「ひゃうっ!」 海斗でも、今宵でもない声に、肩を震わせる二人。 でもって、二人同時に声のした方……リビングの、窓側に目をやった。 ――巫女さんがいた。 それはもう超絶に美人な、巫女さんがいた。 その光景に、本気で頭痛くなる海斗。 本日二人目の住居不法侵入者だし。巫女さんだし。 しかも、今宵は予想通りといえば予想通りな台詞を吐くし。 「お、お母さま!?どうしてここに……?」 (やっぱり……) 心の中で嘆息しつつ、改めて巫女さんに目をやる海斗。 ……一見すれば、今宵にはあまり似ていない。 穏やかで美人な顔立ちに、175はあるだろう身長。 出るところはしっかり出ていて、けれど全体的にはスレンダーな体躯。 今宵が美少女なら、こっちの女性は美女、という言葉を連想させる。 けれど、腰まで届く髪の毛の色とか柔らかさとかは今宵によく似ていて、そこはかとなく面影がある。
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