第1章:優しさの先にあるモノ

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「昼間から職務を放棄して酒場で酒を飲み、夜は賭博に興じて軍の金に手を付ける。 酒代や女郎代、食事代に物資代は全部つけ。 ふざけるなよ。 お前の尻拭いに、ブレイロア卿は私財を投じたんだぞ」 ユリアの言葉に、男爵は自分の副官、ブレイロア卿エオル・シュルトを振り返る。 小さな街の領主でしかない彼は、同年の妻との間に遅くに授かった娘がいる。 倹約家であり節制に努めている彼の私財はそれなりの額だったが、それらは娘の結婚資金だった。 しかし、嘆く市民を見ていられず、妻と娘に話をすると快諾してくれたので、私財を切り崩して返済に当てていた。 が、その私財もすでにない。 使い果たしてしまったのだ。 それだけ、男爵が己の欲望に忠実過ぎたと言うことだ。 ブレイロア卿は瞳を閉じて、何も言わなかった。 だが、それは明らかにユリアの言葉を肯定していた。 顔を真っ赤にしている男爵の背中に、容赦のない言葉を浴びせかける。 「先代が泣くな。 相当な高齢だと言うのにな・・・。 それと、知っていたか?」 問い掛けに、ぎこちない動きで振り返る。 そこに、妖しく冷たい微笑みを浮かべるユリアがいた。 思わず息を呑み、1歩反射的に下がる。 .
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