第1章:優しさの先にあるモノ

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「タイミングピッタリだ」 「は?」 「いや、こっちの話だ」 ブレイロア卿を座らせて、ユリアは手元に1枚の書類を引き寄せる。 1番上には、任命書、と書かれている。 「良く分かったな。 ここに来るよう指示したの」 「・・・僣越ながら、読唇術は我が家の専売特許ですので」 「そうだったな。 言語・話術に優れるシュルト家は侍従として重宝されているからな」 軽い世間話を済ませ、ユリアは本題に入る為に居住まいを正して表情を引き締める。 短く切った白い髪。 柔和な光を宿した碧の瞳。 日に焼けた小麦色の肌。 根っからの軍人であるブレイロア卿エオルは背筋を伸ばして、ユリアを真っ直ぐに見ている。 「単刀直入に言おう。 将軍になってもらいたい。 あのバカの代わりに、指揮をとってくれ」 「お断り致します」 沈黙。 重苦しい沈黙が続く。 しかし、予期していたことなのか、ユリアは動じた風もない。 「・・・理由は?」 「分不相応です。 私は爵位もない1領主に過ぎません。 1軍を任していただくほどでは・・・」 「私の副官は市井の出身だが?」 エオルは押し黙る。 実際、才覚さえあれば、市民でも将軍職につくこともある。 エオルの理由は理由にならない。 .
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