第1章:優しさの先にあるモノ

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「私は、先代男爵に少なからず恩があった。 だから、今まで見逃していたんだ。 でも、いい加減にしないと民が困ることになる。 だから切り捨てた。 それが間違っているとは思わない。 だが、その後任の問題があった。 適役が、お前がいるから良いとは思っていたが、断るのは分かり切っていたから、悩みどころだ」 全く悩んでいないような口調で、淡々と言う。 エオルは瞳を伏せて、膝の上に置いた手を握り締める。 「・・・令嬢は、何と言う名前だったか」 「・・・・・・セレスです。 14になります」 「そうか。 夫人は美姫と名高い人だった。 さぞ、美しく育っているのだろう」 「はい。 貴方には、及びませんが」 エオルの、わずかに浮上した明るい声に、苦笑する。 軍では堅物と言われる彼も人の子だ。 年老いてから生まれた娘は可愛くて仕方ないらしい。 「すでに私財は底をつき、もう1度令嬢の結婚資金を作るのは大変だろう。 昇進すれば責任は重くなるが、少しばかり余裕が出来るだろう? それに、お前は兵からの信頼が厚い。 お前ならば、文句を言う者はいないはずだ」 静かな言葉の連なりに、エオルは頭を下げた。 「・・・申し訳ありません」 ただ謝るエオルに、ユリアは呆れたように息をつく。 .
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