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「私は、先代男爵に少なからず恩があった。
だから、今まで見逃していたんだ。
でも、いい加減にしないと民が困ることになる。
だから切り捨てた。
それが間違っているとは思わない。
だが、その後任の問題があった。
適役が、お前がいるから良いとは思っていたが、断るのは分かり切っていたから、悩みどころだ」
全く悩んでいないような口調で、淡々と言う。
エオルは瞳を伏せて、膝の上に置いた手を握り締める。
「・・・令嬢は、何と言う名前だったか」
「・・・・・・セレスです。
14になります」
「そうか。
夫人は美姫と名高い人だった。
さぞ、美しく育っているのだろう」
「はい。
貴方には、及びませんが」
エオルの、わずかに浮上した明るい声に、苦笑する。
軍では堅物と言われる彼も人の子だ。
年老いてから生まれた娘は可愛くて仕方ないらしい。
「すでに私財は底をつき、もう1度令嬢の結婚資金を作るのは大変だろう。
昇進すれば責任は重くなるが、少しばかり余裕が出来るだろう?
それに、お前は兵からの信頼が厚い。
お前ならば、文句を言う者はいないはずだ」
静かな言葉の連なりに、エオルは頭を下げた。
「・・・申し訳ありません」
ただ謝るエオルに、ユリアは呆れたように息をつく。
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