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親父が死んだ。 おととい、四十九日だった。 立派な人だった。あと数年で50になるその時まで、男手ひとつで僕を育ててくれた、立派な親父だった。   夏が好きで海によく行った。 川にも行った。   釣りを教えてもらった。   ミミズが気持ち悪くて触れない僕を、ははんと笑った。   追試になったときも笑われた。   「俺の子だからな、しゃーねーな」   彼女の写真を見せても笑われた。   「お前にしちゃあ上出来だな」   部屋に隠したエッチな雑誌も笑われた。   「成人したらもっと勉強になるやつ、貸してやるよ」   川へ行った時、少し冷たい水の中にゴロンと寝そべって 「ああ、川はいいなあ」 と目を細めた。   水面が眩しくて 親父が眩しくて 僕も目を細めた。   僕にとって親父は、「男」だった。 男とはこうあるべきだと思っていた。 それが、 交通事故? 肺癌か肝臓癌で死ねるなら本望だと   いつも大きい口を開けて笑っていた親父が 交通事故? 大学でその知らせを受けた時、心臓が止まるかと思った。 今朝は変わらぬ日常で あんなに元気だったのに?   その後は記憶にない。 . . .
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