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猪口に酌を受けながら、佐伯は鷹揚な声を上げた。 「山内は黒羽流の剣士なのだろう。あまり聞かぬ流派だが、腕は強かと聞いておる。藩主の御前試合では、無明流の高弟を立て続けに三人破ったそうではないか」 「いえ、昔の話にござりまする。この頃は久しく木刀も握っておりませぬ」 恐縮しながら、勘平も酌を受けていた。辞儀してから召すと、なるほど優美な舌触りで酒が胃に落ちていくようだった。 「謙遜せんでもよい。黒羽流に伝わる必殺の剣を授かっているという話も、わしは聞いておるのだ」 猪口を持つ手を止めて、勘平は佐伯の顔を仰いだ。 雅に着飾っている佐伯は、やはり薄笑いを浮かべて勘平を眺めていた。 「つかぬことをお聞きしますが、それはどなたの口から聞かれたことでしょうか?」 「何故だ。口封じでもしようというのか?安心せい。そうらしいという話を聞いただけだ。正直な奴だのう」 どうやら鎌を掛けられたようだ。これで言い逃れは出来まい。 勘平は苦笑いを浮かべて猪口を傾けた。もはや腹は決まっていた。 必殺剣のことを知る者は、とうの昔に勘平自身が斬り殺している。 他でもない、その必殺剣で。
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