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玄関だからこそ無粋だろうと、主人は窓を選んだ。一戸建て二階部分にあるメインリビングを覗くため、人目に付かない路地側の窓へ添った。主人には容易であった。ざらついた土壁だけが、主人のやる気を削いでいた。
随分と静かな室内には、華やかな電飾と簡素な装いが施されている。何も動く気配はない。テーブルには白く整えられたテーブルクロスが布かれ、様々な料理の下敷きとなっている。中央には二段に積まれたケーキがどうと置かれていた。
主人は内を構成するそれら全てを把握し、とうとう動いた。彼の依頼を遂行すべく、主人は窓を割った。
家族を殺してくれ。彼の依頼は明快なものだった。主語に対する述語。理解するにはあまりにも簡易だ。主人はそれをふまえた上で、依頼内容を復唱した。そして、己がすべき行為を履き違えぬよう構えた。誰をどのように殺すかを考えた。最後に実行した。
簡単だった。家族という形にない枠組みを理解すれば、手筈に難はない。人間を殺すなど、赤子にさえ可能と言える。それを生業としている主人には、息をしろと命じられたも同然だ。
行動を終えた主人は、しばし町に出た。情報を得るためであり、暇を潰すためでもあった。依頼の遂行は、殺すだけでは足りない。彼が家族の殺害以上の事象を求めていたのを、主人は理解していた。事象が起こるには、時間が要った。
それに関して、主人が動くことはもうなかった。あとは待つだけなのだ。だからこそ気まぐれという心の暇が働いたのかもしれない。主人は身分を大いに装い、彼と彼の家族を調べ始めた。すでに主人の中には答えがあったのだろうが、それさえも心の暇は見咎めたようだった。
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