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その日の俺は、ハニー・ビーでしこたまコロナビールをかっくらった後、テキーラにまで手を出し、いいだけ酔っ払っていた。
所謂『チャンポン』って奴は、俺の冷静な思考回路を破壊していた。
大学時代から三年間。
去年の春あたり頃から結婚結婚ってあいつが言い出し、薄い膜のような物が二人の間に出来たのを感じ始めた。
俺にはまだ結婚なんて遠い先の話で、リアリティゼロだった。
しかしあいつは違ったらしい。
女の三年間は長いだの、三年も付き合ったのにだの、事ある毎に話してくるようになった。
それが鬱陶しくて逃げ回っていたら、いつの間にかあいつとの間に小さなほころびが出来ていた。
ほころびはまるでセーターに空いた小さな虫食い穴のようで、糸はほつれ、穴はどんどん大きくなり、気がつけばもうその穴は修復不可能になっていた。
そうなってしまえば後はもう、糸を完全にほどき切ってしまうしかない。三年間二人で紡いだセーターは、かなりの糸を使っていたらしく、心の中でクルクル巻いた毛糸玉はかなりの大きさだった。
大きな大きな毛糸玉。吐き出すにはあまりに大きくて、次の作品を編み出すにはあまりに糸が擦り切れていて。
胸に残ったこの毛糸の存在を忘れてしまうには、酔いという現実逃避しかなかったのだ。
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