企業舎弟

4/16
前へ
/22ページ
次へ
「ま、いいや。 今から仕事教えちゃーけん見とき」   ユウタはそう言うと トクさんから何か受け取り 俺に見せた。   コピーCDだ。 パソコンで焼いたCD、言わば『海賊版』ってやつだ。 市販のケースそのままで 表には今流行りのバンドのCDカバーをカラーコピーした紙が 貼りつけてあった。   ユウタはニヤっと笑いながら言った。   「仕事は簡単ちゃ。 このCDを売ればいいだけなん。 最低500円で売るんやけど 上乗せすれば自分の利益になるんよ。 おいしいやろ?」   「俺らは上のもんから毎週ノルマ与えられるでな、今週はあと15枚や。 お前とユウタで10枚さばけや。 1000円でも2000円でも好きなように売ればええ」   トクさんが口をはさんで言った。   どうやって売るん? と俺が聞く前に ユウタが歩き出し、公園に座っている男二人組に声をかけた。   「兄ちゃん、CD買わん?」  ユウタはしゃがみこみ、CDをヒラヒラ振りながら男二人を交互に見た。   「いくらですか?」   一人の男が聞いた。   普通に考えたらこんなCD買うわけがない。 だが ユウタの視線は明らかに「断ったらどうなるかわかっとうやろうな」 といった感じの雰囲気を作っていた。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

312人が本棚に入れています
本棚に追加