私とあいつと大量みかん。

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「生きてるかー?」 それが、私が寝食を共にしている病室『303号室』に彼が入ってからの第一声。 彼――八嶋渡は相変わらずアホっぽい顔をしてる。 「生きてるよ、ちゃんと」 私、宮本千春はその第一声に苦笑いしながら返した。 ふと見ると、彼の手元には何かが入ったビニールバックがある。 私の視線に気が付いたのか、渡は「あ、これ?」と言って、私に差し出した。 「差し入れ。じーちゃん家のうまーいみかんだぜ?」 にっと笑って、その中のひとつを取り出して私に見せる。確かに形といい、色といい、何とも美味しそうなみかんだった。 「ありがと、渡」 軽くお礼を言って、バックの中から別のひとつを取り出すと、皮を剥いて一房口に入れる。口の中で甘酸っぱい味が広がった。 「……うん、やっぱ渡のおじいちゃんのみかんは美味しいや」 「だろ?じーちゃんのみかんは他のと違うぜ~」 渡は誇らしげに自分の祖父のみかんを自慢しながら、差し入れのはずのみかんを口に運ぶ。 その後見た表情はなんとも幸せそうな顔だ。 さすが、おじいちゃんっ子というかなんというか… 「ん?どした?」 無意識にまじまじと顔を見てたのか、渡にそう言われて、すぐに首を横に振る。 「いや、ね。渡ってホントにおじいちゃんのみかん好きなんだな~って」 「何を今更」 私の言葉に渡は素早くきっぱりと切り返した。 「俺はじーちゃんのみかんが大好きってことは、千春でも分かってるじゃん」 「まぁ、ね。あんたと私は…『幼馴染み』だもんね」 あんまり認めたくはないが、渡と私はちっちゃい頃から仲良しと評判だ。 私が交通事故で入院することになってすぐに、「きっと、渡君が毎日見舞いに来てくれるよ」と友達が言ったくらいで……まぁ、渡は友達が言った通りこうして毎日来てくれてる。頼んだ覚えはないのだが。
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