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「怪我はどう?退院できそー?」
みかんを口に運びながら、渡が私に尋ねてきた。
私は包帯やらキブスやらで固められた、すっかり左足より太くなった右足を見るために、顔を下に向ける。
そこには黒や青や赤といった様々な色のペンをかなり駆使して、応援や激励の言葉、何だか意味の分からないような絵までもが書かれている。
「うーん…そんなに無理しなければ、あと1ヶ月くらいで退院できるらしいけど…」
「へぇ、良かったじゃん」
「でも、しばらくリハビリは必要だから、退院しても通院するって」
「……じゃあ、ある意味仮退院なんだ?」
「………それに近いかも」
渡に言われ、なんとなくそう考えると、何だかげんなりとしてしまう。
治療のときは全身麻酔を入れてもらってもかなり堪えたのだから。
せめての救いは後遺症がなかっただけだ。
それなのに、憂鬱な入院生活のあとに、また憂鬱なものが待っていることを考えると、どうにもならない。
「ゆっくり治せばいいよ。皆、千春のこと心配してるし」
渡は軽く笑ってまたみかんを食べている。
「それなりの努力はするけどさ…」
「退院しちゃえば、リハビリで休む以外は学校来れるんだし」
「まぁね~」
そして、私は次のみかんを取り出してまた皮を剥いた。
手にはみかんの甘い香りが移っていたが、構わなかった。
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