一話 かたまり

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少年は走っていた。 ただ、走っていた。 理由なんて大層なものなどない。 ただただ走っていく。 夕暮れの赤く染まった道を。 人がいようと気にはしまい。 どうすればいいか分からなかった。 少年はただ走る。 走るしかなかった。 そうすれば、何かよくわからない苛々とする、胸に重く突き上げるようなかたまりが、出ていく気がしたのだ。 時々、走りながら叫んでみた。 何を言うかなど問題ではない。 ただ声を発し、叫ぶということが重要なのだ。 その声と共に、かたまりは出ていってくれないだろうか。 人目など気にしない。 もとより人は、他人のことなど気にはしない。 少年に一瞥をくれると、また何もなかったように自分の道を歩いてゆく。 少年は他人を、また、他人は少年を、気にも留めなかった。
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