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昼下がり。休日は親子連れで賑わうであろう小さな公園に、女は息を切らし逃げ込んで来た。ちょっとした林を越えれば湖が広がる小さな公園。もうこれ以上走れないのか、女は木へ身を傾けた。頭では「逃げなくては…。」と考えているのに、全身が言うことを利かない。一息つき、もう1度走ろうと身を起こした時、女の耳にヒールの音が近づいてくるのが聞こえた。その瞬間、女は硬直する。怯えた女の瞳に映るのは、黒いスーツを着こなし、栗色の長い髪をしっかりまとめた一見キャリアウーマン。ヒールを鳴らし、女の元へとたどり着いた。
「ねぇねぇー。いい加減アタシの話し聞いてくれなぁい?」
間延びした様な口調で話し掛ける。しかし、その声色はどこか女性特有のものとは違った。
「もぉ歳なんだからぁ…。か弱いオカマ全力疾走させるのやめてよねぇー。」
言葉とは裏腹に、息一つ乱していないその者は、整った顔立ちで女を見つめる。
「…っ嫌よ…っ。私を殺しに来たんでしょ!?冗談じゃないわ!どうして私が見ず知らずの人のために死ななきゃいけないのよ!!」
「アラ、大丈夫よぉ。死ぬのは脳だけで心臓は生きてるんだから。」
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