第壱章 松本良順の弟子

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門番の男に案内され部屋へと通される。 『近藤局長。お連れしました。』 男が強張った声で話し掛けると、中から太い声の男が返事をした。 『ありがとう。通してくれ。』 男は襖を開け二人を中へと促すと正面にがっしりとした男と男の右隣に顔の整った男が一人座っていた。 返事をしたのと同じ太い声で口を開いた。 『すまんな。部下の者に客人が来ることをすっかり言い忘れていてな。多目に見てやってくれ』 『構いませんよ。部下を叱るなどお門違いですからね』 ニッコリと松本が微笑むと男も微笑む。 恐らくこの正面に座る男が新撰組の局長、近藤 勇だろう。つまりはここのボス。 『…だ、そうだ。下がって良いぞ。』 松本と巳鷺の背後で怯えながらおどおどしていた門番の男に近藤が言うと、勢い良く『失礼しました』と礼をして去っていってしまった。 二人はそれを見送ると中へと進み、松本は近藤に向かい合う様に座り、続いて巳鷺はその斜め後ろ二歩程後ろに下がった所へ座る。 『私も何分忙しい事ですしさあ本題に入りましょうか。 手紙にあった、あの件ですが受ける事が出来なくなったんですよ』 『はっ?どういうことだ?』 『いやぁ。幕府側から城内の医者にと命令が来てしまいましてね…まぁそう言う事で私は無理なんですよ。本当に残念です』 『それは困ったな。誰か腕のたつ医者を知らないか?』 『そう言うと思いまして心当たりのある者を連れてきました。この者は』 松本がちらりと巳鷺の方を向いて視線を送り再び話を再開させた。 『私の弟子でしてね😃そこらの医者よりも腕はたちますよ。』 深い笑みを浮かべる松本に近藤は顎に手を当てしばし考え込んでいる様子だ。 巳鷺はと言うと黙って話を聞いているといきなり自分へと話が移った為、ぽかんと呆けていた。 (え?…それはどういうことだ?このむさ苦しい所で先生の変わりをしろと…そもそも自分は女なのだから無理では無いのか?…) 一瞬、真っ白になった頭を無理矢理再起動させ思考を始めるといつもと変わらない優しい口調の師匠が声を掛けてくる。 『巳鷺。ご挨拶をなさい』 (なるほど…) 『松本良順が弟子、朔永巳鷺と申します。どうぞ良しなに』
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