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――離れから響き渡る悲鳴が途切れたかと思うと清々しい表情で出てきたのは松本だった。
結局、外で待っていた巳鷺と土方が松本を出迎える形となる。
襖の隙間から室内へと入る土方をよそに松本はだらしないと叱咤する。
『師匠…』
『何か。ずーと言いたかったんでしょう?話してごらんなさい。』
静かに聞いてくる松本。
(いつも、この人は気付いてくれる。)
巳鷺は少しの間、押し黙り口をあけた。
『私は…私は邪魔になったのですか?』
自分の情けない感情が悟られぬよう、出来る限り抑揚を付けずに聞いてみる。
(あなたの邪魔になったんですか?…だから)
目を点にする松本。
優しい微笑を向け。
『巳鷺。あなたと云う人はたまに異(い)なことを言いますね。邪魔だなんて…幕府に呼ばれているのは言いましたよね?私は京を下り江戸に行かなければならない。留守の間、あなたを一人には出来ませんからね。あなたに危険が及ばず、あなたが納得出来るような理由があるところでないと…ほら、あなたってそういうことに拘るでしょう?』
『自分の身は自分で守れます。』
『だからですよ。私が留守でも、あなたは殆んどの敵から身を守れる。だから心配なんです。』矛盾した事を言う松本だったが、己が師匠の辛そうな表情を見て巳鷺にはその言葉の意味が分かった。
矛盾しているようでそうではない松本ならではの優しさが……。
『巳鷺も私の助手をして暫く経つことですし、まぁこれも経験ですよ😁〓あちらに着いたら文を出しますから頑張って下さいね❤』
『分かりました。……あれ?でもたいしたものは持ってきて無いですよ。それにこれは先生のですし…』
『大丈夫。それはあなたのですし、まぁ無いものは猿飛君にお願いしてますからそれなりに揃うでしょう。全て抜かり無く準備してますよ✨』
『私の…?』
そんなはずはない。これは先生の道具だし自分が用意して持ってきたんだ。それに、巳鷺個人用と言った道具などない。
先生が使ってないものをたまに借りる事はあるが入れ物も先生の物に間違いないはず。
持ってきていた道具にそっと手を伸ばし中を確かめる。
『これは…』
思わず息をのんだ。
見慣れたはずの中身は
一度も使った形跡の無い綺麗な道具が並べられていた。
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