第壱章 松本良順の弟子

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『巳鷺の父上が最後に鍛えて下さった道具をこの時までとってたんですよ。…だからそれは、あなたのですよ。巳鷺』 思わず涙が出そうになるのを巳鷺は慌てて押し込む。 『大事に…大事に使いますね。文(ふみ)も出しますから…それと、お身体にお気をつけて……』 涙を無理矢理押し殺したせいか、声が震える。 一度深く息を吸い、先生の方へ正座をすると深々と巳鷺は頭を下げた。 『行ってらっしゃい』 顔を上げ柔らかく微笑むと “行ってきます” と松本は優しく頭を撫でる。 何時もより、いっそう優しい笑顔で…。
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