30人が本棚に入れています
本棚に追加
「ラフ……メイカー?」
「そっ。人にそう呼ばれてるってだけだけどね」
屈託のない笑い。
「で、何の用?」
早く帰らせたいがために、俺はぶっきらぼうに尋ねた。
「ずばり、あんた今泣いてたでしょ? だ・か・ら、あんたに笑顔を届けに来ました」
にこやかな笑顔を崩さぬまま、来訪者は珍妙なことを言う。
笑顔を届けに来た?
ラフメイカー……laugh maker……笑いを作る者?
お笑い芸人?
なるほど、それならおかしな格好も説明がつく。
でも、カッコつけて英語で”ラフメイカー”って。
まぁ、誰だろうと俺には知ったこっちゃない。
「間に合ってるんで」
「へっ?」
間抜けな面をしたまま、ラフメイカーの言葉が止まる。俺はその隙にドアノブを引いた。
しかし、ドアは閉まらない。ラフメイカーは素早く隙間に足を挟み、ドアをロックしていたのだ。
「ちょ、ちょっと待ってよ。いきなり閉めるなんてひどくない?」
知るか、怪しいやつめ。
「ここさぁ、寒いんだよね」
だから何なんだ。
「だからさぁ、とりあえず中、入れてくれない?」
ちっとも悪びれた様子も見せず、ラフメイカーが部屋を覗き込む。
最初のコメントを投稿しよう!