虫虫虫

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変わった話をしよう。今となっては昔のことだ。 私は不思議な体験をした。 ある街のある一軒家に一風変わった人間がいた。玄関に表札はなく名前は分からなかったが、その彼を記号化すれば“虫”の一言に尽きる。 何故ならば彼は大の十乗しても足りないような虫好きで、世界中の昆虫を集めては飼っていた。私有地であることを利用して、様々な虫を籠にいれることなく家に野放し、その結果、昆虫の住家となった彼に近付く人は殆どいなくなっていた。 そんな彼の家を訪問したのはひとえに好奇心といえる。 変わった人間に会うのが好きだった私は噂を聞き付けるやいな、すぐさま彼を尋ねていた。 まるでジャングルのような道を抜けて彼の家の玄関へと辿り着く。 私はその家から発せられる異様感に一つ深呼吸を吐いて、チャイムをならした。 一回。二回。三回。 と鳴らしても誰もでない。 五回目のチャイムを鳴らした時、ふとドアに耳を近付け中の様子をうかがう。 ガサガサガサ。と虫たちが這う音。 さすがに気持ちが悪かったが、どんな人か一目見たい気持ちが上回る。 なにげなく、ドアノブに手をかけると、簡単に回る。 そのまま引くと簡単に引ける、鍵はかかっていないようだ。 ―――意を決してドアを開けた。 虫が勢いよくはいでてく。 思わず一歩さがり、その流れが治まるのをまった。 中は異界だった。 中に入ったのに外に出たような――回りくどい言い方はやめよう。噂に違わぬ景色。虫の楽園。ジャングルだった。蛍光の光はあたりを照らすも薄暗い。だがそれでもわかるその光景は、何処を見ても―― 虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫虫………虫。 蜘蛛やらゴキブリやら知らぬ虫がはい回りテリトリーを築いている。 ―――そんな昆虫世界の中心に一際大きな――有り得ぬ大きさの昆虫が、他の虫を貪っていた。1メートルを超える巨大、蜘蛛のような顔にカマキリのような二本の腕、その他にはムカデのように手足がついて細長い。よくよく見ればその巨大な奴の回りに蜘蛛の巣のような粘ついた粘液が虫たちを止めている。 カマキリのような腕で虫を一匹掴んでは口に頬り、一匹掴んでは貪る。
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