17人が本棚に入れています
本棚に追加
「大丈夫か?」
見上げると彼が心配した顔付きで尋ねてくる。
どうやら私はいつの間にか泣いていたらしい。頬に暖かいものが伝っている。
「うん、大丈夫。」
彼は私の涙を拭ってくれた。彼は微笑んでいる。
暖かい…そう思った。
「どっか行こう?ここ寒いしさ」
うん。と私は頷いて彼から離れた。彼は手を伸ばしてくる。それを私はしっかりと掴んだ。
ネオンの明かりが幾つも照っているところまで来た。周りには明かりがいくつも灯ったビルが並んでいる。向こうの方にはホテルが見える。二人でここを通る、来る、というのは始めてだった。というより二人で街中を歩くのは付き合っていた頃振りかもしれない。
そこで彼は黙っていた口を開いた。
「離婚の理由ってさ。大概が不倫だよな」
「えっ?」
私はいきなりの夫の発言に戸惑った。
「大概が夫が不倫する方が多いけど、妻が不倫する場合もあるよな」
もしかして、あなた…
「俺達は少数派の方だよな」
彼はそういって、私の顔を覗き込む。彼は悪戯めいた笑みをしていた。そうだ、彼は絶対に気が付いている。私が今まで不倫していたことを…
「夫にとって、一番怖いのは妻が寝とられることだよなぁ」
これまた思わせ振りな発言をしてくる。
私の胸の中に恥ずかしさが込み上げて来て、それを隠すため私は彼の腕を引っ張って速走りした。
「ハハハ、冗談だって」
冗談になってないから!!
「それよりもさ、どこに行く?そろそろ暖かいところに入りたいし」
「…んじゃ、ラブホ」
私は今、真剣に行きたかった。
「いきなりっ!? …来週にしない?実は昨日、昔の友達とサッカーして、腰が痛いんだよ」
「ダ~メ。今まで、私は我慢して来たんだから、今日は朝までヤるわよ。あなたの腰が抜けるまでヤりまくる」
私をおちょくった仕返しだ。ホントに朝までヤッてやる。そうじゃないと満足出来ないし。
私は笑って再び彼の腕を引っ張った。もう迷うことはない。彼を真っすぐ愛せる。もう一夜限りの不倫なんてしない。
私は私であり続ける。
FIN
最初のコメントを投稿しよう!