冬の生き様

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タバコがあと一本しかない そう気付いたのは、 タバコの自動販売機が今日の営業を終えるまであと三十分のことだった。 箱を叩いてみたら二本になるかなと思ったが、 ビスケットのようにうまくはいかない。 そもそも、 ポケットの中にビスケットが一つという機会も今まで一度もなかったし、 ましてや叩いたら二つになることも経験したことはない。 歌の中のビスケットは、 あくまで歌の中のポケットに入っている。 今からタバコを買いに行くとしたら、 近くの商店にポツンと置いてある自動販売機しかない。 一番近いコンビニまで歩いていくのは大変だし、 わざわざタバコ一箱のために車を出すのも気が引ける。 結局、 ポツンとした自動販売機を目指すことにした。 タバコの自動販売機が一台だろうが百台だろうが売ってるものはタバコに変わりないのである。 しかし、 どうも体が動かない 窓から見える景色は昼ならば銀世界と言えるが、 夜はただ雪国の日常でしかない。 窓から見える雪の大群が体に金縛りをかけてしまったようだ。 外は寒いだろうな そんなことを考えているうちに時間は簡単に過去っていく。 タバコを辞めればいい話だが、 そんな簡単に辞められるなら「禁煙セラピー」という本はあんなに流行らなかったと思う。 吸いたいものは吸いたいんだから仕方がない。 ただ、 窓一枚隔てた外の世界も、 「寒いものは寒いんだから仕方がない」と言ってるようだった。 軽く一伸びし、 小さくため息をついたあと、 外の世界に挑戦することに決めた
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