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そこは病院だった。
個室なので他に同室者はいない。
そこにいるのは一人の少年だけだった。
少年の名前は 柊 紅華(ヒイラギコウカ)。
焦げ茶色の髪に大きな黒い目も持つ12歳程に見える男の子だ。
紅華は今、パジャマ姿だ。
それもその筈。紅華は今、入院しているのだから。
病院から出る事はあまりできない。
だから殆んどの間中紅華はパジャマ姿だった。
紅華は上半身だけ起こした形でベッドに座り、大きな瞳で病室、ベッド脇にある窓から見える空と見下ろせる位置にある病院の中庭を見つめていた。
―本日も晴天。快晴なり。
そうは言っても、僕は晴れ渡る空をこの病院の窓から見る事しか出来ないけれど。
面会は、来ない。来るとしても親が週に2,3度くるだけでその他の来客は無し。
それも当たり前である。
僕は物心ついた時には既に病院の中。
同年の子供との触れ合いなどあるわけもなく、同時に来客に来る人もいない事を示していた。
正直暇である個室。
自らが望んでしてもらった個室であるが、こうも暇だと少し後悔の念も抱かれる程だ。
暇に混じって、寂しさや孤独感が押し寄せてくる事もある。
何を言ったってまだ子供である僕に、人に触れられない個室という空間は苦痛以外の何ものでも無かったのである。
今日はといえば、日曜日。
普通の家庭の子供ならば、日曜日辺りになれば友だちや家族と出掛けたり遊んだりするのだろうか。
病院で毎日を過ごしている僕にとっては理解し難い事であり、心のどこかでは自らが伏せておきたい現実なのかもしれない。
自分の病気について、僕は知らない。
とにかく大変な病気なのだ、そう母さんが教えてくれた。
大変な病気とは何なのか、なんてそんな事、聞く気にはなれない。
自分の身に降りかかる悪ならばどうせなら知らないでいたい、そんな気持ちがあるからであった。
とにもかくにも、母さんが言う大変な病気、であるから僕は病院を出ることは出来ない。
どう足掻いても覆らない。間違いない事実である。
ふと窓から中庭を見下ろしてみる。
「あ……、」
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