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折角の月夜だったのに嫌な奴と会ってしまった…。
シオンは砂利を音を立て踏みしめた。
――アスター神父
それが先程の彼。人好きのする笑みをいつも顔に張り付け、何かあると神に祈れと言う。
町の者は皆彼が好きだが、あれは紛れも無い吸血鬼だ。
シオンは聖職者として吸血鬼を狩るのが仕事。
――最も、何の害もなさない者は私の狩り対象には入れられない。
たまに、皆が奴の正体を知ってしまったらと恐くなる事がある。人間は吸血鬼と聞くと見境なく殺す。彼等だって生きる権利位あるだろうに…熟神は不公平な世を作ったものだ。
――…
宿に戻ると給持が夜食を運んでくれた。別に頼んだ覚えは無いが、折角の好意を無駄にはしなかった。
上に掛るナフキンを取ると、バターロールが二つにイチゴジャムが添えてあった。
血の様にドロリと紅いジャムをパンで掬い口に運ぶ。
――美味しい。
吸血鬼にとって人の血とは何なのだろう?
彼等の胃は人間と然程変わらない。なら、何故血が必要なのだろう?
――人間の私が分かる訳もない。
だから以前アスターに聞いてみた。だがあっさり流されてしまった。
我ながら酷な事をしたと今では思う。吸血鬼である己を嫌う者に、わざわざ思い出させる様な事をしたのだから。
人間の私が分かる訳もない。
「今日はもう寝ようか…」
仕事が無いのは平和な証だが、ちょっと刺激が無い。
私は明日何をするか考えながら床に着いた。
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