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しかし、青年が近寄るとキッと力強い瞳で青年を睨んでくるのです。
血を垂らしながら一歩ずつ、黒猫は青年から遠ざかろうとします。
「あっ――」
青年がその様子を見守っていると、黒猫の体がゆらりと力なく倒れてしまいました。
慌てて近寄って確かめると、黒猫はまだ息があるようでした。
青年はホッと胸をなで下ろします。しかし、そう長くはもたないでしょう。
「これ使いな」
トン、とおばさんが救急箱を青年の足下に置きました。
「おまえさんと――その黒猫の手当に。それとこれも」
トン、とおばさんはまたなにかを置きます。
それはキャットフードでした。
「昔飼ってた猫の分さ。一応は取って置いたんだけど、猫を飼うことをだんながもう承知してくれなくてねぇ。だから、おまえさんにあげるよ」
「ありがとうございます!」
青年はおばさんに何度も何度も礼を言いました。おばさんは、
「なんであたしはこの子に弱いんだろうねぇ。さ、仕事仕事」
と呟きながら、お店の中へと戻っていきました。口調とは裏腹にその顔はどこか嬉しそうです。
青年は心の中でもう一度、
「ありがとうございます」
と礼を言いました。
こうして、黒猫は青年に飼われることになりました。
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