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青年の家は町はずれにありました。
吹けば飛んでいきそうな、ぼろぼろの小さな木の家です。
おばさんがくれた毛布にくるまり、黒猫を優しく介抱しながら、青年は自分の身の上話を語りました。
「僕はね、絵描きになりたくて、一つ山を越えた小さな町からやってきたんだ。でも、なかなか売れなくてね」
青年は昼間は通りに出て、絵を道に並べて売っていました。
ごくたまに売れはしますが、みすぼらしい青年の身なりにほとんどだれも近寄りません。
ですから、夕方になるとおばさんのお店で皿洗いの仕事をしてお金を稼いでました。
もっと働くのならもっとお金をあげてもいいよ、とおばさんに毎度のごとく言われるのですが、青年はただ笑って首を振ります。
朝から晩まで皿洗いしてるだなんて、そんなの絵描きではありませんから。
黒猫は体がよくなるまで青年の家にいるつもりでした。
そうして、傷が治ったら出ていくつもりでした。迷惑をかけないためとか、そういうわけではありません。
黒猫は一人が好きなのです。だれかに飼われるだなんてもってのほかです。本当ならすぐにでも出ていきたかったのですが、どうあっても青年は黒猫を家から出そうとはしないのです。
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