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ホリィのけががすっかり良くなると、青年はまた絵を売りにいきました。
お店の手伝いは変わらずしていましたが、ホリィのことを思い夕方までずっと付き添っていたのでした。
ホリィは青年が帰ってくるまでただただ待っていました。
寂しくはありません。
このぼろぼろの家の中には青年の温もりがたくさん詰まっているのですから。
その温もりに浸りながら、毛布の上にうずくまり時には眠りにつきながら、ホリィは青年の帰りを待ちます。
そうして青年が帰ってきたら、短い尻尾を振って青年を出迎えたのでした。
慎ましい食事を終えた後、青年は決まってスケッチブックに鉛筆を走らせました。「ホリィは鉛筆でも色が付けられるから楽だね」と冗談を言いながら、月明かりを頼りにホリィの絵を描き続けます。
それは青年とホリィにとって、幸せな時間でした。
ホリィの絵を描いてからは皮肉にもさっぱり絵が売れなくなりました。
不吉な黒猫の絵など、やはり買おうとする者はいないのです。
青年にはたしかな才能がありました。
いえ、ホリィと出会い、その才能が開花したと言っていいでしょう。
青年が描く絵は人々を立ち止まらせる力がありました。
しかし、それ以上に黒猫の力は大きかったのです。
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