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それでも青年はひたすらにホリィの、親友の絵を描き続けました。
いつか彼の良さが分かってもらえるように、ただそれだけを願いに込めて。
青年の願いが叶うことはありませんでした。
それどころか、黒猫の絵ばかり描き続ける青年のことを、「あいつは頭がおかしくなった」と人々は見るようになりました。
もはや、青年の絵に立ち止まる人もいなくなりました。
さらに追い打ちをかけるように、青年が黒猫を飼っているといううわさがどこからか流れ始めました。
それはすぐさま町中を回り、人々はあることないことを言って青年を嫌い始めました。
たとえお金があろうとも、店の人はなにも売ってくれません。
生活の糧であったレストランもクビになってしまいました。
「すまないねぇ。あの人、すっかり怒っちまって……。食料を厳しく管理しだして、もうなんにもあげられなくなっちまったよ」
すまなそうにおばさんが言います。
「いいえ。僕の方こそいままで迷惑かけてすみませんでした」
「迷惑だなんてそんな……。おまえさん、これからどうするんだい? いっそ故郷に帰ったらどうだい?」
おばさんは一心に勧めますが、青年は首を振ります。
「僕はこの町で絵描きになるって決めたんです。絵描きになって故郷に帰るって決めたんです」
「なら、なにもこの町でなくたって……」
「この町はホリィと出会った町です。だから出ていきたくないんです」
青年は静かに微笑みました。
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