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その叫び声と共に、一斉に猫たちが黒猫に飛びかかります。
それはもう、ただただ一方的なけんかでした。
黒猫は本来、素早い動きで相手を惑わし倒すのですが、こうも囲まれてしまってはどうしようもありません。
必死に爪を牙を振るいますが、どうしたって黒猫の方が深く傷ついてしまいます。
「こらっ、やめないか」
けんかがぴたりと止みます。レストランの裏口が開き、一人の青年が出てきたのでした。
青年は髪はボサボサ、服はボロボロで、しかし目だけは綺麗な優しい目をしていました。
手には紙袋が握られています。
「やめないか」
青年がもう一度言うと、若い猫たちはさーっと散っていきました。
あとには傷だらけで横たわっている黒猫が残されました。
「よってたかって可哀相なことを……」
青年は店の中へと引っ込み、誰かを呼びました。
ひどく慌てた様子でおばさんが青年と一緒に裏口から出てきます。
お店の主人の奥さんです。
「どこだい? けがしてる猫ってのは――おや、まぁ黒猫じゃないか」
おばさんは黒猫の姿を見つけ、露骨に嫌そうな顔をします。
おばさんも黒猫が嫌いなようです。
「黒猫なんて放っておき。構うんじゃないよ」
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