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「でもこのまま放っておけば死んでしまいます」
悲しげに黒猫を見つめたまま、青年は言います。
「いいんだよ、黒猫なんてのはいなくなったほうが」
「でも……こいつは多分、僕と同じなんです」
「同じ?」
「ええ。だから僕が飼います」
「飼うだって?」
おばさんは驚いて目をぱちくりさせます。
「いいかい、おまえさんは自分が食ってくだけでも精一杯じゃないか。それなのに猫を飼うだなんて」
「なんとかなりますよ」
青年は微笑みます。でも、おばさんにはなんとかならないことが分かっていました。
少ない賃金ながらもおばさんが店で働かせ、
さらにはいくらか食べ物を分け与えているから、青年は一応は生活できているのですから。
「僕が、飼います」
青年は力強くそう言って、黒猫の元へ歩み寄りました。黒猫にそっと手を近づけて――
「――っ!」
指を噛まれてしまいました。それみなさいと、おばさんはしかめっ面です。
「大丈夫だよ。僕はお前をいじめたりなんかしないから」
青年は優しく声をかけますが、黒猫はよろよろと立ち上がり、青年に背を向けてしまいます。
ふらふらと一歩ずつ一歩ずつ裏道の先へと向かいますが、とても見てられません。
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