序章

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友達と過ごす待ち時間というのは、あっという間に過ぎてしまうものだ。 噂話や今後の予定に花を咲かせているうちに出発時刻となり、次々と浮れ顔の生徒たちが搭乗券を片手に飛行機へと乗りこんで行った。 カナタという青年も、本日修学旅行に出発する生徒の一人であった。揃って明るい顔の生徒たちの中で、ひとり浮かない顔をしているため、いやでも目に付く。 端正な顔立ちに、すらりと高い身長。黒い髪は短く清潔に切り揃えられている。いかにも女性受けしそうなルックスで、服装や持ち物も男子高校生らしい、高くもないが流行りのブランドの物で占められていた。 そんな彼は、級友との談笑に参加することもなく、ずっと黙り込んで床に尻をついていた。ぼんやりとした視線は中空のある一点を見つめ、何かを思い悩んでいるというよりは、何も考えていないという風に見受けられた。 修学旅行に対する楽しみなど微塵も感じられない。あからさまに気を漫ろにさせている彼をここまで落ち込ませた原因は、一ヶ月前の出来事にあった。
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