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いつまでたっても人の中にある負の感情は消えない。
恐怖、憎悪、嫌悪……。
全て人が作り出す心の闇、一番深く暗い場所にある感情。
「君たちにも、それはあるよ」
一人の美しい少年がとても面白そうにそう言った。
黒い髪、黒い瞳の漆黒の少年のその声は虚しく心に響く。
改めてそれを突きつけられると、分かったつもりでいたのにどうしようもなく絶望した。
「だってそうだろう? いくら綺麗事を並べても、その感情は誰にでも潜んでる」
彼はそう言って自嘲気味に虚しく笑う。
「ねぇ、冬錮(とうこ)。……僕と一緒に来ないかい?」
動けない傷ついた身体で瞳だけ向ける、その銀髪の幼い少年に彼は言った。
その言葉は水のように渇いた心に浸透した。
小さな少年は心のどこかでずっとこの言葉を待っていたような気がする。
「僕は杞憂(きゆう)。この世界を壊す者」
煙と炎が渦巻く中、それは少年の意識を持っていこうとする。
静かにそう言った少年はとても美しい不思議な笑みを浮かべていた。
「冬錮!!」
彼は最後に姉の声を聞いた。
この世で最も好きで、最も憎いその双子の存在を何度嘆いただろう。
裏切り者の一族として北に追いやられ、それでも凛としてたくましい彼女が羨ましかった。
そして自分の心の闇が怖くてたまらなかった。
しかしそれはもう、どうでもよかった。
その時には彼はもう少年の冷たい手を取っていたからだ――。
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