第一章 冷たい風が吹いてきた

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倉田は外で話が終わるのを待っている。 「晃さんマジで凄いよな、すでに一人で開業しちゃってんだもんな」天馬が部屋を見回しながらいう。 「お世辞はいいよ」晃はニヤニヤ笑いながら答える。 「尊敬っス」 「涼子といつ知り合ったんだ?」晃は照れ隠しに話題を変えた。 「今日です、不良グループに絡まれているとこ助けました。晃さんは涼子と知り合いなんすか?」 「患者だよ」晃の声が少し暗い感じがした。 「患者って、この子が?」天馬は驚き聞き返した。 「涼子の為にお前には話したほうがいいかもな・・・解離性同一性障害、簡単にいえば多重人格だ・・・この子の体の中にはいくつかの人格がある」天馬は真剣に話を聞いている。 「一人目の人格、これがこの子の本当の人格で池田麻衣。少し性格は暗い、全てはこの病気のせいだ」 「最初の人格・・・か・・・」天馬は複雑な気分になった。 「二人目の人格、多分今日お前があった人格だな、名前は涼子。年齢は15歳、この子の中では一番元気で明るいが繊細な心の持ち主だ。好き嫌いが激しく野菜は絶対に口にしない」 「本当の人格じゃないんだ・・・」天馬は涼子に視線をなげる。 「三人目は少し年齢が離れている、45歳の女性だ。年齢が高いだけに少しおばさんくさい、名前は智子」 「おばさんもいるの?」天馬は再び驚いた。 「四人目の人格は真奈美。この子は本当に頭がいい、天才だ。東大狙えば一発で合格できるだろう」 「涼子が言ってたのはこれか・・・じゃあ麻美ってのもいるの?」天馬の質問に晃はドキっとして唾を飲み込んだ。 「まあまて、五人目は男」 「男!?」 「ああ。名前は隆、変に元気で扱いにくい」 「五人もいるんだ」やっとの想いで話についていく。 「いいや、もう一人いる」晃は眉間に皺を寄せる。 「まだいるの!」晃の説明を聞いていたが、真実であるという実感がまだわいてこない。ただ話しの内容に驚いていた。 「いちばんやっかいな奴だ」 「どういうことですか?」天馬は晃の表情が変わったのに気付いた、あきらかに何かに怯えた顔に・・・ 「まずは多重人格について説明しよう、多重人格ってのは子どものころ虐待や体罰などを受けそれらの苦痛から逃れるために別の人格をつくり虐待を代わりに受けてもらう・・・」 「じゃあこの子も体罰か何かを?」天馬は聞いていて胸が締め付けられる様な想いがした。 「ああ・・・」晃の表情が曇った理由が理解できた気がした。
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