第一章 冷たい風が吹いてきた

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「虐待か・・・」天馬の顔もいつの間にか曇っていた。しかし、晃の顔に写る恐怖の理由までは理解できない。 「その虐待を押し付けられた人格は勿論虐待から解放された今でも麻衣の中にいる、その人格は虐待を麻衣に押し付けられたわけだから今でも麻衣を恨んでいる、自分に虐待を押し付けといて自分は楽しく暮らしている、それが許せないんだ・・・そこでその人格は麻衣を殺そうとするんだ」晃が麻衣を見る。 「殺す?無理じゃないですか?だってそいつは涼子の中にいるわけだから・・・・・まさか、自殺?」 「その通り」 「なにも自殺までしなくても」 「そいつには俺達の常識は通じない、俺達なら例え憎い相手を殺したいと思っても自分まで死にたいとは思わないだろ?でも、そいつにしてみれば当たり前のことなんだよ、生きていても楽しみを見付けることができないんだ」 「なんか難しいです」頭をかきながら答えた。 「ただ、今のは普通の多重人格の患者の場合なんだ」 「自殺するのがですか!」 「ああ・・・」 「じゃあ涼子の中にいるやつは?」 「こいつは頭がいい、ただ死ぬだけでは恨みが晴れないと思ってるんだろ、ただ自殺をしようとするのではなく麻衣が一番苦しむ事をしようとする、例えば麻衣の仲良かった友達にカッターナイフで襲いかかったり、麻衣が一生懸命世話していた犬を逃がしてしまったり・・・・俺は花瓶で頭を殴られた事がある、妹の梨絵覚えてるか?あいつも長かった自慢の髪を切られた」梨絵は晃の妹で歳は17歳、天馬の兄弟と同じように晃の兄弟も歳が離れていた。天馬は初めて梨絵と会った時から泣き虫の梨絵の面倒を良くみていた、それはスコーピオン時代も同じだった。 「怖いな、そいつ」 「一度や二度じゃない、出てくれば何かしらしでかす、この残忍な人格が・・・麻美だ」天馬はそれをきいて驚いた。 「麻美って奴が」晃が恐怖を感じた理由が理解できた。 「麻衣が暗いのは友達と言える友達がいないうえに出会う人間全てに嫌われると思い人との接触を避けているからだ。おまけに自分の自由な時間が少ない、自分の知らないところでいろいろなことが起きている。今回だってお前と知り合ったこと麻衣は知らないんだ」 「・・・別の人格が出てる時は記憶は無いってことですか?」 「ん~本当の人格以外は別の人格を監視できる。つまり麻衣達はいつでも麻美に監視されている、楽しみを見付ければ麻美に壊される・・・」
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