第一章 冷たい風が吹いてきた

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「ひどいな」天馬の胸の中にももやもやしたものが生まれた。 「麻美は父親に酷いことをされた、タバコの火を押し付けられたり、拳で殴られたり、一日部屋に閉じ込められたり、一晩中ベランダに出されたり・・・痛いとか、やめてとか言えばさらに叩かれる。そんな酷い目にあわされたんだ麻美は、こうなってしまうのもむりはないよ」麻美の心理の奥底を覗くと胸がいたんだ。 「あの・・・」突然背後から声が聞こえた。 「気付いたか」晃は麻衣が気付くと立ち上がり脈をはかりはじめた。 「あら、晃先生。私はなんでここにいるのでしょう?」表に出ていたのは智子だった。話し方が少しおばさん臭い、そう感じたと同時に晃の信じがたい話が現実だと感じることができた。 「涼子が不良連中にお金をとられそうになってる所を彼が助けてくれたんだ、そのあとまた倒れちゃって」晃が説明すると智子は立ち上がり天馬の前にたった。 「どうも」天馬は不思議と緊張した。 「助けていただいたそうで、なにもできませんがありがとうございました~。本当に若いこってやんなっちゃうわよね~」智子はまるで親戚のおばさんの様に頭をさげた。 「いえいえ、こちらこそ、あの~その~・・・何だ・・・どうも」頭では理解できたつもりだったが実際目の前にしてしまうとどうにも戸惑った。 「あら、こんな時間だ・・・帰らなくては」智子は時計を見ると慌てて帰る用意を始める。 「もうこんな時間か」晃も釣られて時計に目をむけた。 「あっ飴玉あったわハイ」智子は鞄の中から飴を取り出すと天馬に渡した。 「次の診察は明後日の五時からでしたわね?」 「えーと、そうだね」 「でわまたよろしくお願いしますホホホ」智子は晃との会話が終わると意味がありそうな笑いを残し帰っていった。 「・・・」天馬は晃に飴を見せる。 「・・・もらっとけ」 「あれが智子・・・さんですか?」 「よく分かったな」晃は驚いていた。 「あのキャラだとほかが思い当たりませんよ・・・俺のことわかんなかったみたいですね」本人以外は別の人格を監視できる、晃は確にそういった。 「さっき説明したのが全てそのまま当てはまるわけではないんだ、別の人格が出てるときにあったことを必ず覚えてるとはかぎらないんだよ」 「・・・よくあるんですか?」 「え?」 「気を失うこと・・・麻美に殺されるとかじゃなくて、死んじゃうってこともあるんですか?」晃を睨みつけるように質問した。
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