第一章 冷たい風が吹いてきた

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「あっ・・・」天馬が愛里の後ろ姿に視線を投げると、梨絵が何かに気付いた様に声を漏らす。 「どした?」天馬も梨絵の視線の先を見つめる、そこには池田麻衣が川を見つめて座っていた。 「私あっちから行きます」梨絵はそういうと天馬から自転車を受取り別の道を選んで足早に立ち去った。 「・・・」天馬は梨絵を見送ると麻衣に近付いていく。天馬に気付いた麻衣は立ち上がり警戒しはじめた。 「なにか?」目の前にいる少女に涼子の様な明るさや智子の様ななれなれしさは無かった。少女の瞳は悲しみに支配されている、目が会うと背筋が凍りそうな寒気を感じた。 冷たい風が吹いてきた・・・ 「あの~・・・涼子じゃないよね?」天馬は躊躇いながらも確認すると少女はうんざりしたように溜め息をつく。 「私はあなたを知ってるの?」 「今日涼子が不良グループに絡まれてるとこ助けたんだけど覚えてない・・・・よね」 「そうだったの、ありがとう」少女は無表情なまま礼をいう、感情など宿ってはいない。 「もしかして・・・麻衣?」再び恐る恐るきいてみる。 「二度と私に近付かないで」少女は天馬を睨みつけて答える、初めて言葉に感情が込められていた、その感情は明らかに怒りの感情だった。少女は天馬に背を向ける。 「どういう意味だ?」天馬の躊躇いが消える。 「きいてどうするの?あなたには関係無いじゃん、二度と近付かないでくれればそれでいいの・・・サヨナラ」少女はそのまま立ち去ろうとする。 「待てよ」今度は天馬が攻撃的な口調で少女を呼び止めた。 「俺は仲間を裏切らない、辛いなら話してくれよ・・・俺はまだあんたの病気の事はよくわからないけど、力になりたいんだ」少女は天馬に振り返った。天馬は真っ直ぐに自分を見つめている。 「・・・・」少女は何もいわずに立ち去った。 「・・・・」天馬は黙って少女を見送る。 翌日の朝早く、剛と鉄也は町外れの工場の隅で仲良く眠っていた。 二人は前日の夜遅くまで街で遊んでいた、帰るには時間も遅くなりすぎていたので家に今日は泊まると電話をすると近くにあったこの工場に潜り込んだ。夜中で明かり一つついていなかった工場は使われて無いように見えて二人は寝床として潜り込んだ。壁をよじ登って侵入した二人は入口にガードマンが立っていることに気付いていない。
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