第一章 冷たい風が吹いてきた

14/27
前へ
/386ページ
次へ
朝になると機械が動き出した音で二人は目を覚ました、お互い寝惚け眼のまま時計を見るとまだ六時、しばらくそこでボーっとしていると工場の作業員が現れて二人を見つけた。二人は捕まりそうになり逃げ出す。その時ゴリラのような顔をしたガードマンが二人の姿を確認すると「不法侵入だ」と叫び後を追い掛けてきた。 「早くこいよ」先を走る剛が振り返り笑顔で鉄也に言う。 「うるせえよ、走れ走れ」鉄也も剛の後を追い掛ける様に逃げている。鉄也もまた笑っていた。 「待て」後ろからガードマンが追い掛けてくる。 「登れ」剛が膝を曲げてしゃがむと鉄也はそれに足をのせて少し高い壁に飛び付いた。壁の上に乗ると鉄也が手を伸ばし剛を引き上げる、二人は見事な連携であっというまに壁を乗り越えた。 「ハハハハハ」二人は声を揃えて笑った。 「不法侵入だってよ、んな立派な工場じゃねーっつーの!」剛が言う。 「あのガードマン見たか?ゴリラみてーなツラだった、バナナでもおいてくりゃよかったかな?」鉄也は鞄の中からタバコを取り出した。 「いたぞ」鉄也がタバコに火をつけようとした瞬間二人のガードマンが現れた。 「やべ、散るぞ」タバコを胸ポケットに突っ込み立ち上がる。 「駅でな」剛の言葉でお互い拳と拳をぶつけて別々の道に走り去った。 天馬は前日涼子と出会った川原に座っていた、いつもの様に倉田は少し離れた場所に立っている。その後ろを学生達の群れが楽しそうに会話しながら大学へ向かい歩いていた。 「・・・」天馬は横目で学生達の群れを眺めている。 よく晴れた朝はもう肌寒くなっている、それでも学生達は白い息を吐きながら笑顔で道を急いでいた。その中に一人うつ向き寂しそうに歩く学生を見つけた。楽しそうな学生の群れの中でその少女は不思議なくらいに目立っている、その女性は麻衣だった。 「あっ・・・・」天馬は麻衣に声をかけようとしたがなんと呼んでいいのか迷ってしまった、今表に出ている人格はだれだろう。 「あっ!」そんなことを考えていると麻衣が天馬に気付き近付いてきた。 「おはよう」天馬は誰が表に出ているのかわからない。 「おはよう、なにしてるの?」少女は楽しそうに話しかけてきた。 「えっと、涼子?」天馬は直接きいてみた。 「なんだ、ばれちゃってるのか」表に出ていたのは涼子だった、涼子は天馬に背を向けて川を見つめて座る。
/386ページ

最初のコメントを投稿しよう!

215人が本棚に入れています
本棚に追加